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インタビュー2010-09-13

したコメ開催記念インタビュー「いとうせいこう」にとってコメディーとは何か!?

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 2008年の初開催から今年で3回目を迎える「したまちコメディ映画祭in台東(以下、したコメ)」。日本でも唯一「コメディー」に焦点を当てた「したコメ」は、不況によって各地の映画祭が規模の縮小や開催中止に追い込まれる中、年々その盛り上がりが高まるという全国でも希有な映画祭になっている。
 その総合プロデューサーを務めるいとうせいこうさんに、今年の見所やしたコメを支える秘密、そして、せいこうさんとコメディーとの出会いについてもうかがった。

【出演者のオファーはツイッター経由】

-年を追うごとに開催規模が大きくなってきていますが、したコメの魅力をせいこうさん自身はどのように分析しますか?

「水平的なつながりを活用しているところが他の映画祭と大きく違いますね。出演者のオファーにはツイッターのDMを使っていることが多い。DMで『どうですかね?』って知人に話を投げて進んでいきます。だから出演者同士がネットワークされている。音楽フェスってそうですよね。山下達郎さんが演奏していたら他の出演者がステージ袖で見ている。その盛り上がりがしたコメにはあるんです」

-せいこうさんのツイッターからオファーが始まっているんですね。

「先日、芸人のマキタスポーツさんの出演が決まったのですが、これは彼がツイッターである企画に『いいなー』というリプライを飛ばしているのを見たから『じゃあ出ない?』っていうことになったんです。見に来るなら出てよっていう感じですね」

【いとうせいこうオススメ企画】

クレイジーキャッツ ニッポン無責任時代

-今年もさまざまな企画がありますが、せいこうさんのオススメの企画を教えてください。

「モンティ・パイソン特集ですね。残念ながらテリー・ギリアム監督の来日は実現できませんでしたが、今回日本初公開となる『Not the Messiah(ノット・ザ・メシア)』はモンティ・パイソンじゃないと絶対にできないオペラです。下品だし、無神論的だし、ここまでのクオリティーでふざけられるっていうのはいまだに世界的にも断トツな存在です。僕も含めて笑いの好きな人は、この作品を見て自分たちの笑いを反省せざるを得ない。モンティ・パイソン特集には、昨年に引き続き松尾貴史さん、宮沢章夫(遊園地再生事業団)さんをゲストに、解説には須田泰成さん、司会には大場しょう太さんというラインアップなのでガチガチにマニアックな場所になると思います」

-モンティ・パイソンの他にはどうでしょうか?

「クレイジーナイトですね。クレイジーキャッツの映画をオールナイトで上映しながら合間に未公開映像も流します。この映像はスクリーンでは二度と見られないんじゃないかな?70年代、80年代にはあったんだけど、クレイジーキャッツの映画を見ながらオールナイトで盛り上がるイベントは久々なんじゃないかと思います」

-クレイジーキャッツがコメディーの世界に及ぼした影響というのはかなり大きいものだったのでしょうか?

「現在ではかなり別物になってしまっているけど、クレイジーキャッツの時代は音楽界と芸能界がとても近い存在だった。だから小松政夫さんも来るし鈴木慶一(ムーンライダース)さんも来る。音楽にも笑いにも影響を与えている存在なんです。そんなグループは日本にはいない。クレイジーキャッツを無視したら日本のカルチャー自体が語れないというくらいに大きい存在ですよね」

【サポーターが支えるしたコメ】

したコメSCの主催によって開催されたシンポジウムの様子

-今年、新たにしたコメサポーターズクラブ(以下、したコメSC)も発足しましたね。

「下から上がってくる意見やアイデアが支えてくれるのがしたコメなんです。したコメSCは映画祭をバックアップしてくれる存在になっています」

-さらに、今年は個人スポンサーも募集されました。どのくらいの人数が集まったんでしょうか?

「条件もそれほどよくないのに36人のスポンサーに集まってもらいました。これもしたコメSCと似ていますね。スポンサーとして1万円支払った人は文句をいう権利もある。こういった組織が都市型の映画祭で組織されるのはとても珍しい。今後はもっとこれを押し進めていきたいですね。個人の出資枠が増えて、個人が支える映画祭になったらそれこそ素晴らしいと思います」

-したコメSCの方々も映画祭に対してとてもプライドを持っていますね。

「よくサポーターのみんなには『半分あなた方のものだからちゃんとやってね』と話します。もちろん映画祭としての部分は事務局や僕らの方が長けている。けれどもそれ以外のことに関しては彼らに任せている部分がある。例えば今回「こまどり姉妹」をお呼びしますが、この企画は彼らから上がってきました。僕らには思いつかないこういう企画が入ってくることによって、全体が活性化してきます」

-他に、したコメSCの方々の独自活動はあるのでしょうか?

「前々夜祭みたいな形でいろいろイベントをやっています。したコメの開催地域を使って長期的にイベントをやっています。シンポジウムとか無料上映会とかを勝手に(笑)。したコメだけが打ち上げ花火のように上がるんじゃなくて、したコメSCが散発的にイベントをやって映画祭の磁場を作る。そしてしたコメが開催される、という理想的な形になっていますよね」

-「お祭り」のようなイメージですね。

「例えば浅草にはいろんな町会がありますが、それが上部で連合になるんです。そして最終的に三社祭になりますよね。普段はそれぞれに意見を言ったりしていましたが、最後にガチッと固まる。三社祭としたコメの構造はほとんど同じですね」

-そういった意味でも下町ならではですね。

「したコメSCにもお祭りをやる以上、絶対に見た人を楽しませなければという責任感があります。自分たちだけが楽しいのではいけない、それが祭りをやる側のプライド。下町の祭りに対する鍛えられた感覚があるんでしょうね」

【コメディーは映画館で見なきゃいけない】

-現在浅草にお住まいだそうですが、移り住んだ理由は何なのでしょうか?

「僕は柴又の方で育ったんだけど、浅草ってすごく賑やかなところだったんです。僕にとっては憧れの街だったんですよ。もちろん、今考えると銀座や日本橋もありますが、僕にとっては浅草。引っ越したのは今から13、4年くらい前ですね」

-東京の東側には西側にはない雰囲気がありますよね。

「西側とは文化が違うから面白いですよね。歴史が優しく守られている感じがします。そういった伝統っていうのは一つの資源だと思うので、したコメでは存分に活用していくつもりです」

-せいこうさんがコメディーに目覚めたきっかけを教えてください?

「大学の頃にピン芸をやっていたんですが、スネークマンショー一派に拾われたのが活動を始めるきっかけです。もちろんその頃にはクレイジーキャッツもモンティ・パイソンも見ていました。大学の頃にはマルクスブラザーズのオールナイト上映とかがあったり、二番館や三番館の企画としてコメディー特集が多かった。僕が大学生の頃は教養の一つだと思っていました。当然見ておかなきゃならないものだったんですよ。だから、コメディーはあらゆるものを捉えるときの入り口ですね」

-映画館も今よりも身近だったんですね。

「ゴダールの『気狂いピエロ』を映画館で見た時、見に来ていた外人がゲラゲラ笑ってるんですよね。あまりに乱痴気だから大笑いしてるんだけど。その経験で映画の見方を一つ学びました」

-確かにその経験はDVDではできませんね。

「他人がどう見ているかというのを知ることができるから映画の見方がわかっていくんです。映画館はそういう一つのつながりであって、見方を共有する、新しい見方を得る場所です。家の中だけだったら思い込みだけで見なきゃならないから損しているよね。例えばモンティ・パイソンの見方は、したコメで見た方が本を読むよりも早い。こういうところを感心するんだなっていうのがわかるんです。決して真似する必要はないけど、人がそこで笑うのかというのを知ることが大事なんです」

【いとうせいこうがコメディーにこだわる理由】

-なぜせいこうさんはこれまで一貫してコメディーにこだわり続けているんでしょうか?

「笑いはセンスが一番出るんです。論理は本で伝わるけどセンスは表さないと伝わらないんです。それに、みんなにいい笑いのセンスがないとやりにくい。冗談が悪口に聞こえる世の中は嫌ですよね。愛情を持って『お前本当にバカだなー』と言った時に理解されない世の中は窮屈じゃないですか。だから、観客にもいいコメディーを見てほしいし自分も新しい笑いに出会いたいんです」

-せいこうさんが注目しているコメディアンは?

「池谷のぶえさんはいつ見ても面白いですよね。あとはブルースカイという作家がいるんだけど、本当にでたらめです。ひどい毒と無邪気な笑いが混在していますね。芸人だとダブルブッキングの川元(文太)かな。バカリズムをさらに毒の方向に持っていった感じです。あまりに売れないからいつまで芸人やってるかなって心配になりますが(笑)」

-最近でも執筆やタレント活動はもちろん、日傘を製作されたり歩数計の開発を行ったりと、さまざまな活動をされていますが、せいこうさんはどのような存在を目指しているんでしょうか?

「江戸時代の人で山東京伝(さんとうきょうでん)という人がいるんだけど、絵も描くし小説も書く、ファッションにも精通しているし、イベントも仕掛けました。平賀源内もそうだよね。文楽の台本も書ければ、エレキテルも発明しちゃうし、うなぎも売っちゃう。普通だったら『何なの?』って思われると思うんだけど、よく考えれば、現代になってそれが職業で切られるようになっちゃっただけなんだよね。僕自身は自分のことを編集者だと思っています。あの人の周りにはしょっちゅう面白いことが起こっているなと思ってもらえればいいですね」

【プロフィール】

いとうせいこう1961年3月19日生まれ。東京都出身。88年に小説「ノーライフ・キング」でデビュー。その後も小説、ルポルタージュ、エッセイなど、数多くの著書を発表する。1999年、「ボタニカル・ライフ」で第15回講談社エッセイ賞受賞。執筆活動を続ける一方で、宮沢章夫、竹中直人、シティボーイズらと数多くの舞台・ライブをこなした。また、音楽家としてもジャパニーズヒップホップの先駆者として活躍し、現在はロロロ(クチロロ)での活動も話題に。

【第3回したまちコメディ映画祭in台東】

「映画(Cinema)」「したまち(Old town)」「笑い(Comedy)」という3つの要素を掛け合わせることで、映画人、喜劇人、地元住民、映画・喜劇を愛する観客が一体となって盛り上がる住民参加型の映画祭。日本の喜劇発祥の地であり、いまなお古き良き庶民文化が脈々と引き継がれている下町「浅草」と、日本有数の芸術・文化施設の集積地域「上野」を舞台に、国内外の新作・旧作・名作・珍作・異色作から選びに選び抜いたコメディーをプログラム上映する。今年の開催期間は9月16日~20日。

(文責:萩原雄太・西田陽介/上野経済新聞)

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